苦言は「相手の価値観を前提にしつつ、“具体+感情+目的”で伝える」ことで伝わります。
ストレートに言えば角が立つ、間接的に言えば伝わらない――そんな悩みは多くの人が抱えるところです。
こんなことで困っていませんか?
- 「何度言っても職場の同僚が改善してくれない」
- 「家族にちょっとしたことを伝えたつもりが、ケンカになってしまった」
- 「友人にお願いごとをするとき、気を遣いすぎて本音が言えない」
- 「上司や部下に注意したいけど、関係が悪くなるのが怖い」
- 「本当はこうしてほしいと思っているのに、空気を読んで我慢してしまう」
これらは、伝え方の工夫ひとつで解決することが少なくありません。この記事では、日常でよくある場面別の例を交えながら、「伝える技術」としての苦言を解説していきます。しっかり構造を押さえ、あなたの言葉がしっかりと相手に届くようになるためのヒントを詰め込みました。
苦言の前に必要なのは“自己整理”である
苦言を伝える時、真っ先に取り組むべきは「自分自身の中にある感情や目的の整理」です。なぜなら、感情に任せた言葉は多くの場合、相手を傷つけたり、思わぬ反発を生むからです。
伝えたい“ポイント”を明確にする
たとえば、上司が毎朝10分遅刻してくることに不満を感じているとします。このとき、「遅刻が嫌」という感情だけでは伝わりません。「遅刻によってチームの朝会が始められず、全体の進捗が遅れること」が伝えるべきポイントです。誰にとって、何が困るのかを明確にすると、相手にも意図が伝わりやすくなります。
さらに、「これがたまにのことであれば問題ないが、週に3回も続くと周囲に悪影響が出る」というように、頻度や背景も加えると、問題の深刻度を客観的に示すことができます。
それが問題である理由を掘り下げる
「ただ嫌」という感情ではなく、「それによって起こっている実害」を洗い出します。例として、「朝会がずれ込むことで、取引先との会議に遅れが生じた」など、実際の不都合を具体的に言語化します。また、そのままにしておくと将来どんな問題が起きるか、未来のリスクも付け加えるとより伝わりやすくなります。
「周囲のメンバーが不満を感じていても声を上げていない」など、自分以外にも影響があることを伝えると、問題が個人的な感情ではなく、全体的な課題として受け止めてもらえる可能性が高まります。
相手の立場や背景を推測する
伝える前に、相手にも事情があることを考える視点を持ちましょう。もしかするとその上司は、育児や介護など、個人的な理由で遅れているのかもしれません。背景を想像することで、非難ではなく提案のトーンで伝えられます。
さらに一歩踏み込んで、「〇〇さんも朝の時間が大変だと感じているかもしれない」といった想像力を持つと、共感ベースの対話になり、相手の防衛心を下げることができます。
「具体+感情+目的」で構成する伝え方フレーム
多くの人は「言っても伝わらない」「気まずくなる」と感じて苦言を避けがちです。ですが、伝え方に構造を持たせれば、驚くほどスムーズに伝わるようになります。ここでは、実際の言葉の組み立て方を丁寧に解説していきます。
具体的な事実を伝える
「先週の朝会で、〇〇課長が毎日10分以上遅刻していました」など、具体的な場面や日付、時間を入れましょう。「最近いつも~」などの曖昧表現は避けます。事実に基づいた伝え方は、説得力が格段に上がります。
もし複数回ある場合は、「今月に入ってからすでに5回遅刻がありました」などと統計的に示すと、客観性が増します。数字や回数を添えるだけで、主観的な不満ではなく、冷静な指摘になります。
自分の感情を添える
「そのとき、正直焦ってしまいました」「段取りが乱れ、ちょっとイライラしました」など、あなた自身の感情を素直に表現します。ここでは“非難”ではなく“共有”がポイントです。感情を伝えることで、相手に「この人はちゃんと向き合ってくれている」と感じてもらいやすくなります。
さらに効果的なのは、「怒っている」というより「困っている」という形で表現することです。「対応が遅れることで後ろの業務に影響が出てしまって困っています」といった表現に変えるだけで、相手の受け止め方がやわらかくなります。
解決したい目的を明示する
「朝会がスムーズに進めば、全員が一日を効率よくスタートできると思います」など、あなたの意図を相手が理解できるように伝えましょう。「こうしてほしい」ではなく、「こうなるとお互いに良い」という着地点を示すことがポイントです。
目的がはっきりしていると、相手も「なぜ今これを言われているのか」が理解できます。また、「相手にとってのメリット」も一緒に添えると、より前向きな対応を引き出しやすくなります。
相手の心に届く3つの伝え方テクニック
構造だけでなく、心情に配慮したテクニックを使うことで、伝える内容がぐっと優しく、伝わりやすくなります。
Iメッセージで主語を「私」にする
「あなたが遅刻すると」ではなく「私は会議の進行に困る」という言い方に変えるだけで、印象が柔らかくなります。自分が困っているという視点で伝えることで、相手に“責められている”という感覚を与えにくくなります。
Iメッセージは、「私は〇〇と感じた」といった主観ベースの表現であるため、相手も「意見」として受け止めやすくなります。攻撃的な印象がぐっと減るのが特徴です。
THREE・Oフレームを活用する
- T(Thank you):いつもありがとう
- H(Here’s what happened):実際に起きたこと
- O(Outcome you want):こうなってほしい
この順番を守ることで、相手に伝える心理的ハードルを下げられます。また、感謝から入ることで、相手が受け身ではなく前向きな気持ちで聞いてくれる確率が高まります。
たとえば、「いつも資料をまとめてくれてありがとう。先週のミーティングでは、共有が会議直前だったことで内容を把握しきれず焦ってしまいました。前日までに共有いただけると、全員での議論がより深まると思います」など、順序を守ると受け取りやすくなります。
期待と信頼を先に伝える
「あなたなら改善できると思う」「頼れるからこそ、こうして伝えています」といった言葉を添えることで、相手の受け取り方が変わります。これは言いづらいことを伝える前の“クッション”として非常に効果的です。
信頼や期待は、言葉の温度をぐっと和らげてくれます。伝える内容が多少厳しくても、冒頭に「信じているからこそ」という一文があるだけで、印象が180度変わることもあるのです。
シーン別の実践例と改善案
苦言の伝え方は、その場の空気や相手との関係性によって大きく変わります。ここでは職場、家庭、友人のシーン別に、具体的な事例とその改善方法を紹介します。実際の場面を想定することで、読者が「自分ならこう言おう」とイメージしやすくなります。
ビジネス:部下の仕事の遅れ
状況:「資料作成が毎回期限を過ぎる部下」
NG例:
「また遅れてるじゃん。ちゃんとやってくれないと困るんだよ」
OK例:
「いつも丁寧に作成してくれてありがとう。先週と今週、資料提出がそれぞれ2日遅れていました。これが続くとクライアントの確認が間に合わなくなってしまうため、今後は提出期限を守ってもらえると安心です」
補足ポイント:感謝から入り、事実を示し、提案で締める3ステップが効果的です。
家庭:パートナーのスマホ依存
状況:「食事中もずっとスマホを見ている」
NG例:
「いい加減にしてよ。いつまでスマホいじってるの?」
OK例:
「食事の時間って、1日の中で一番ゆっくり話せる時間だと思うんだ。最近スマホに集中していることが多くて、少し寂しく感じてる。食事中は一緒に会話を楽しみたいな」
補足ポイント:タイミングは食事直後が理想。協力型の提案が◎。
友人関係:遅刻が多い
状況:「毎回のように遅刻してくる友人」
NG例:
「なんで毎回遅れるの?いい加減にして」
OK例:
「いつも会うの楽しみにしてるんだけど、最近は待ち合わせに毎回10~15分遅れることが多くて…正直ちょっと残念に思うことがあるんだ。5分前に着くように意識してもらえると嬉しいな」
補足ポイント:具体的な回数や時間を添えることで説得力UP。周囲への影響も添えて伝えると効果的。
タイミングと空気感が結果を分ける
どれだけ言葉を選び、どれだけ構造化されたフレームで伝えたとしても、それを“いつ・どこで・どんな状況で”言うかによって、伝わり方は180度変わってしまいます。タイミングと空気感の読み方は、苦言を伝える際の「見えない鍵」といえます。
相手が落ち着いている時を選ぶ
相手が仕事で追われている時や、明らかに不機嫌そうな時に指摘をすると、こちらの言葉が届かないばかりか、逆効果になることも。
たとえば、退勤時間直前や朝イチのバタバタしている時間などは避け、ランチ後や一息ついている時を狙うと、相手も冷静に受け止めやすくなります。
場所と距離感にも配慮する
指摘や苦言は、なるべく「対等な空間」で行うことが望ましいです。会社であれば会議室や人目の少ないスペース、自宅であればリビングやキッチンなど日常的な空間が適しています。
また、真正面に座るよりも「横に並ぶ」「斜めに向き合う」ほうが圧迫感がなく、相手の反発心を和らげる効果があります。
相手の反応を見ながら“間”を取る
一方的に話すのではなく、相手の反応を見ながら少しずつ伝えていくのが理想的です。「いまちょっといい?」「この前のことで少し気になっていることがあって」など、前置きを挟むことで相手の心構えを作ることができます。
途中で「どう思う?」「もし自分が同じ立場だったらどう感じる?」といった問いかけを入れると、対話の形になります。
まとめ:苦言は“信頼の証”であり、関係を深めるきっかけになる
苦言を伝えるという行為は、決してネガティブなものではありません。それは、相手との関係をより良くしたいという「信頼の証」であり、前向きな関係構築の第一歩です。
- まずは自分の感情や意図を整理する(自己整理)
- 次に、具体+感情+目的の構造で相手に伝える(フレーム活用)
- さらに、Iメッセージや信頼の言葉を添えて伝わりやすさを高める(テクニック)
- 最後に、伝えるタイミングと空気感を読む(状況判断)
この流れを押さえることで、言いづらかった一言が、相手との関係性を深める「本音のコミュニケーション」へと変わっていきます。
伝えることを恐れないでください。伝え方さえ工夫すれば、それは相手への最高のリスペクトになります。
あなたの言葉が、相手の未来を変える力になるかもしれません。
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